宮城
2025.11.02
みなさん、こんにちは! 今回の旅の舞台は、宮城県石巻市・雄勝町。海沿いのまちに描かれた壁画を美術館の館長と巡りながら、腕利きシェフのフルコースを堪能する―とっておきの贅沢を詰め込んだ、アート×ガストロノミーのスペシャルツアーです。
雄勝町は、2011年の東日本大震災の際に20mの津波で町の8割が壊滅した地域。鑑賞する壁画作品は、震災後に津波から住民を守るために建設された巨大な防潮堤をキャンバスと見立てて始まったアートプロジェクト「海岸線の美術館」の所蔵作品です。
今回の旅をナビゲートしてくれるのは、美術館の館長・高橋窓太郎さんと、高橋さんが「アーティストのような料理人」と評する石巻の人気和食店「四季彩食 いまむら」の店主・今村正輝さん。参加者はお二人とともに、海岸沿いに点在して展示されている10点の壁画作品を巡りながら、その浜で獲れた食材を使った料理を1品ずつ食べ、1日かけてフルコースを味わう“インスタレーション作品”のような非日常な体験をしていただきます。
【目次】
そもそも「海岸線の美術館」とはどんな場所なのか? 雄勝という土地と食材の魅力、そして今回の旅だからこそ見えてくる景色と体験の魅力について、お二人に語り合っていただきました。
_まず「海岸線の美術館」はどのような経緯で、どんな目的で生まれたのでしょうか?
高橋_すべての始まりは、僕が広告代理店に勤めていた2019年。雄勝町で行われたとある研修プログラムに参加し、初めて防潮堤という巨大な建造物を目にしたことでした。
防潮堤は住民を守るために造られたものです。けれども、結果として陸地から海は見えなくなり、海とともに暮らしていた住民と海を隔てる高い壁となってしまった。ときに「負の遺産」という文脈で語られることもありました。
僕も初めて防潮堤を見たとき、「建築の暴力じゃないか」と思ったんです。けれども同じ研修に参加していた女子高生が「津波で白紙になった雄勝は、これからどんな姿にもなれるんだ」と話していて、その言葉に強い衝撃を受けました。
そして、その場でふと「海の音さえ聞こえないこの空間は、美術館のようだ」と思ったんです。そこから“巨大な防潮堤をキャンバスにして作品を描いていけば、灰色の壁が色彩豊かな風景へと変わっていく”というイメージが自然と生まれ、広がっていきました。町全体を美術館にする。そんな世界でも類を見ないコンセプトへとつながっていったんです。
_高橋さんと今村さんはどこで出会ったのですか?
高橋_僕が東京から石巻に通い初めた頃、「街中に『いまむら』というすごく美味しい和食屋さんがある」と聞いて。すぐに食べに行ったのがきっかけです。
今村_「海岸線の美術館」がまだ構想段階の頃ですね。壁画を多く描かれている安井鷹之介さんをはじめ、アーティストの方々と一緒に来てくださって。お店のカウンターで壁画の話を熱っぽくされていたのをよく覚えています。
_今村さんは、雄勝のことを魚介の産地としてよくご存知だったのですか?
今村_雄勝は牡蠣やアワビ、銀ジャケをはじめとして、季節ごとに美味しいものが獲れるとても豊かな場所です。そうした食材を求めて、以前からよく訪ねていました。ちょうど高橋さんとお会いした頃は、コロナ禍もあり、料理と改めて向き合うようになっていて。料理に使う水からこだわりたいと考え、雄勝の水が美味しさを知ってからは、毎日のように車で40分かけて水を汲みに通っています。
―そのよく知っている場所に壁画が描かれると聞いて、どう思いましたか?
今村_話を聞いた翌日、雄勝を訪ねて防潮堤を見に行ったんです。「本当にここに絵が描かれるの?」と信じられない気持ちでした。いろんな意味で「そんなことが許されるのだろうか」とも思いましたね。
高橋_そうですよね。僕たちも最初は「誰にどう言えば、ここに壁画を描けるのか」と、手探りで模索するところから始めました。
その過程で、地元の学校の先生や住民の方々、漁師さんたちとも出会い、雄勝という土地のこと、歴史や文化についてたくさんお話を聞かせてもらいました。次第に僕たちの構想に賛同して、協力してくださる方も少しずつ増えていったんです。
作品もまた、アーティストの安井君が何度も長期にわたって現地に滞在し、地元の方々とさまざまなコミュニケーションを重ねながら、一つひとつ生まれていきました。
_今回の旅は、その壁画作品群を巡りながら、今村さんの地元食材を使った和食のフルコースを味わうという企画です。
髙橋_僕としては、「やっと実現する」という気持ちなんです。防潮堤に最初の壁画となる《THEORIA | テオリア》を描いている頃から、壁画の前にテーブルを並べて、屋外で美味しいご飯を食べるーそんなイベントをいつかやりたいと考えていました。料理は絶対に今村さんにお願いしたい、と。
2022年に《THEORIA | テオリア》のお披露目をしたときも、お振舞いという形で今村さんにご協力いただきました。
今村_あのときは、雄勝で獲れたいろんな魚介を使った潮汁(うしおじる)を作らせてもらいましたね。それ以来、毎年、美術館のお祭りに参加していて、高橋さんとも「ここでコース料理を出したら面白いよね」と話していました。だから僕自身も「いよいよだな」と意気込んでいます。
壁画は今、雄勝のいろんな場所に描かれていますが、それぞれに「なぜそこにこの絵が描かれたのか?」という理由や意味がありますよね。
高橋_まさにその通りです。「海岸線の美術館」の作品は、外から訪れる方々が鑑賞するものでもありますが、地元の方にとっては“毎日見る風景”です。だらこそ、「何を絵として残すべきか?」は重要で、住民の方々から教えていただいたこと、その声が作品に反映されて当然なんです。雄勝と一口に言っても15の浜ごとに個性があり、歴史や文化がある。作品にもそれらが表れています。
今村_食材もある意味そうで。浜ごとに獲れるものが違いますし、同じ魚でも味が違うんです。だから今回の旅では、壁画を見ながら各地の浜を巡り、それぞれの浜ならではの食材を料理に取り入れることになると思います。いわゆる一般的な“ひとつながりのコース料理”とはまったく違う、特別な体験になるはずです。
_今のところ、どんな料理が出される予定なのですか?
高橋_たとえば最初に訪れる予定の名振浜(なぶりはま)には、かつて集落が賑わっていた頃のお祭りを描いた作品《BIG CATCH | 名振のおめつき》があります。そのお祭りにちなんだ料理を出せたらと話しているんです。
今村_「おめつき」というのは、標準語でいうところの「思い付き」という意味で、お祭りで必ず行われていた即興の寸劇のことだと聞きました。その言葉にピンと来て、今回の料理にも“即興性”みたいなものを盛り込みたいと思っています。
高橋_すごく熱いですね。アートでいえば、インスタレーションや体験型のパフォーマンス作品。もちろん料理なので、仕込みという準備はあるにせよ、完成はその場でお客さんと一緒に作りあげる。そんな即興性はとてもスリリングな体験を生むはずです。さらに食材の調達も参加者と一緒に、そんなチャレンジもしてみたいですよね。
今村_ツアーが催行される11月2日(日)は、ちょうどアワビ漁解禁の翌日です。ただ、その日にアワビが用意できるかどうかは自然次第で、今は分からないとしか言えません。けれども、そうした“分からなさ”も楽しみのひとつとして期待してもらえたらと思います。僕自身もこの機会に改めて雄勝という土地のことを学び直していて、料理の内容はギリギリまで変わる可能性があります。最近特に面白いと感じているのは、「鹿狩り」という風習です。
高橋_雄勝といえば、海のイメージが強いですが、リアス式海岸の山が海に迫る地形で、鹿も多いんです。今はジビエとしても注目されています。「鹿狩り」は初代仙台藩主・伊達政宗公が毎年秋に家臣たちと雄勝を訪れ、馬で鹿を追い弓矢で狩った行事のこと。軍事訓練的な意味合いもあったようですが、雄勝の歴史を物語るエピソードとして今も大切に語り継がれています。
_魚介だけではなく、山の恵みも今回のコース料理には含まれるのですね。
今村_僕の中には「鹿狩り」を料理として形にするイメージがあるんです。言葉にするのは難しいし、そのときに状態のいい鹿肉が手に入るのかどうかという課題もあるのですが……。
たとえば長いテーブルの手前に、鹿の好きなエサである野菜や木の実を並べて、お客さんはそれを取りながら進んでいき、最後に鹿肉に辿り着く。ソースはそうだなあ、アーティストの安井さんにかけてもらって、そのプレート自体がアートになるようなイメージです。
高橋_それは未知なことだらけで最高ですね! そう、僕は普段から今村さんのことをアーティストだと思っているんです。料理をただ美味しくするだけじゃなくて、どこまでも楽しいもの、面白いものにしようとされている。そのために漁師さんと一緒に漁船に乗ったり、農家さんの収穫を手伝ったりと、膨大な労力を惜しまない。
今村_雄勝に限らず、石巻は料理人にとって最高の環境だと思っているんです。いろんな食材が獲れる現場がすぐ近くにたくさんあって、「誰がいつ獲ったのか」「誰がどう育てたのか」を知った上で料理ができるんですから。
高橋さんは僕のことをアーティストとおっしゃいますが、僕は高橋さんと一緒で美術館側のような立ち位置。石巻の食材の魅力をカウンター越しにお伝えしているような感覚です。そこでお客さんに喜んでもらえたら、僕はすごく嬉しいし、その嬉しいという気持ちを漁師さんや農家さんにも伝えたくなる。そうするとみんなも喜んでくれて、「こんな美味しい食材もあるよ」と教えてくれるんです。
_今回のアートと美食の旅では、それぞれの魅力を掛け合わせて楽しむこと以上の、予測不能な化学反応が起こりそうですね。
高橋_僕はこの旅をお客さんも一緒に創るインスタレーション・体験型パフォーマンス作品だと捉えています。今村さん、食材を提供してくれる漁師さん、壁画を描いたアーティスト、そして参加してくださるお客さん。それぞれが思いを持ってその場に集まり、壁画を見ていろんなことを感じたり考えたり、語り合いながら、美味しいものを食べる。その体験丸ごと全部を提供するのが、僕の役割だと考えています。
今村_僕としては、最後は漁師さんも一緒にテーブルを囲んで、宴会のような状態になることが理想ですね。料理に合わせた飲み物をご用意するペアリングコースの形式にはなりますが、その言葉が持つ“上品さ”とはちょっと違ったものにしたいというか、ならざるを得ないと思います。
高橋_僕も雄勝を訪れたり、今村さんのお店にお邪魔するようになって初めて経験したのですが、食材を獲った本人の話を聞きながら料理を食べるーこんな贅沢はありませんよね。しかも、今回は雨さえ降らなければ、屋外での食事。壁画や景色をどう見てもらうかも突き詰めたいと思います。
今村_ある種の“野生味”みたいなものは生まれてくるでしょうね。さっきまで生きていたものが、今お皿の上にある驚きとか。手掴みでそのままガブリとかぶりつく感覚に訴えるような料理があっても面白いですよね。
_お話しを聞けば聞くほど、旅への期待が高まってきますね。
高橋_ぜひ期待値をマックスにして雄勝までお越しください。当日は僕も案内役として、お客さんと一緒に体験したいと思っています。天気がどうなるか、予定していた食材が手に入るのか……心配し出したらキリがありません。だけど、そのすべてを裏返して考えれば、今回の旅は予定調和を超えたところにある“アート”になるんです。しかもその土地で、その時しか生まれることのない、強度と必然性を持ったアート。
今村_そうですね。でもだからといって構えてほしいわけではなくて。おいしくて楽しくて、刺激的な体験を楽しみにして来てもらえたらと思います。ものすごく期待していただけたら、その分だけ旅の総エネルギー値も上がるはずですから。
高橋_僕には「お金では買えないような経験だった」と思ってもらえる自信があります。「海岸線の美術館」はまだ始まったばかりですが、目指しているのは壮大な夢です。海岸線に100の作品を残し、100年以上続いていって、やがて世界遺産になるということ。
その過程で、この場所を目的地とした旅行企画もどんどん実現していきたい。今回はその第一歩です。お客さんには、僕たちと一緒に「海岸線の美術館」の新しい可能性を見出し、これから築かれる長い歴史の一部になっていただきたいと思います。
さらに、このツアーの売り上げは、次の壁画作品の制作に充てたいと考えています。そういう意味でも一緒に美術館をつくる仲間になってもらいたい。そうした出会いが生まれるツアーになることを願っています。
あとは、当日晴れることを祈るばかりです。よろしくお願いします!
高橋窓太郎
たかはしそうたろう/東京都出身。東京藝術大学建築科を卒業後、電通に勤務。2019年にビジネス研修で訪れた石巻市雄勝町で、巨大な防潮堤にアートで新しい風景を創る可能性を見出し、「海岸線の美術館」プロジェクトを発案。この活動に専念するため22年に電通を退職し、現在は館長として「町全体を美術館にする」という壮大な目標に向け活動している。
https://kaigansennobijutsukan.com/
今村正輝
いまむらまさてる/千葉県出身。大学卒業後、世界中を旅して周り、多くの経験と人、料理に出会う。2011年5月に震災ボランティアとして石巻を訪れる。そこで石巻の人や食材の魅力を知り、13年4月に「四季彩食 いまむら」をオープン。石巻県域の新鮮な食材をふんだんに使ったコース料理を提供し、県外のみならず海外からもお客さんを呼び込んでいる。
https://www.facebook.com/ishinomakiIMAMURA/
参加のご応募について/下記リンクよりお申込み下さい。
仙台駅に集合したら、8:30ごろ貸切バスで出発。移動の車内では、旅のオリエンテーションを行いながら、このツアーの見どころをご紹介します。
2011年の東日本大震災の津波により、大川小学校では児童74名、教職員10名の尊い命が失われました。大川地区全体では418名が犠牲となっています。震災の教訓を未来へ伝えるため、石巻市は校舎を震災遺構として保存しています。今回はその地を訪れ、併設の「大川震災伝承館」も見学します。
自己紹介で場があたたまったあとは、「海岸線の美術館」館長・高橋窓太郎さんの案内で、《BIG CATCH|名振のおめつき》をじっくり鑑賞。続いて、ツアーシェフ・今村正輝さんが地域の伝統と歴史、絵画から着想を得て仕立てた、最初のひと皿を楽しみます。
雄勝法印神楽の演舞をモチーフに、江戸の歌舞伎役者を描く浮世絵「大首絵」の手法で仕上げた、安井鷹之介の《Okubi - e|大首絵》を鑑賞。続いて供される二皿目の前菜は、当日までのお楽しみ。シェフだけが知る秘密のひと皿です。
立浜漁港では、海岸線の美術館の活動初期から関わり協力してきた漁師横江さんに漁港を案内していただきます。ホヤの養殖筏を海から引き上げる様子の見学や、雄勝町の歴史、地理、震災復興など、多面的な海の生活について教えていただきます。漁港見学後に鑑賞する雄勝小・中学校の壁画も、当時校長だった横江さんの発案によるもので、壁画のバックストーリーなどについてもお話いただきます。
「海岸線の美術館」の起点となった、雄勝小中学校の壁画《HIGHLIGHTハイライト》と、同じく安井鷹之介が生徒たちとともに制作した地上絵GOLDEN CAVE|黄金窟をその場所でスペシャルドリンクを飲みながら鑑賞します。
鳴き砂をテーマにした岩村寛人の迫力ある作品を鑑賞したあとは、「道の駅 硯上の里おがつ」で小休止。雄勝名産の硯や新鮮な海産物など、ここでしか出合えない品々を楽しんでください。
いよいよ、アート×ガストロノミーの旅も最高潮へ。巨大な壁画が並ぶ広場で、参加者と生産者がロングテーブルを囲みます。夕陽に染まる空の下で味わうメインディッシュは、この旅を締めくくる最高のごちそう。サンセットディナーは、きっと心に残る一生の思い出になるはずです。
日帰りの方は仙台駅で解散です。今回のツアーをきっかけに、また石巻を訪れていただけたなら、とてもうれしく思います。
石巻に宿泊される方は、石巻で下車・ホテルにチェックインとなります。その後、館長をはじめツアースタッフが、このまちの夜を楽しむナイトクルージングへご案内。翌日は「タウンガイド バイ ニッチャートラベル」を片手に、ぜひ街歩きをお楽しみください。