兵庫
2024.11.2-3
こんにちは!今回ご紹介するのは「建築家と若旦那衆が手がけた旅館を巡る建築と温泉」ツアーです。舞台は開湯1300年、日本海に面した関西有数の温泉地、城崎温泉。城崎といえば趣の異なる温泉を浴衣姿でそぞろ歩きしながら楽しむ外湯めぐりが醍醐味ですが、実はここ数年で個性的な旅館が増えてきています。昨年には旅館の若旦那衆が発起となり「建築と温泉」というイベントを開催、8つの旅館と8組の建築家が手がけた個性的な旅館の内見ツアーが開催されました。本ツアーはそれに次ぐ、建築家が案内する旅館建築と温泉の両方を満喫できるツアーです。
ツアー第一回目となるナビゲーターは、プロダクトから空間まで幅広い分野のデザインを行うケース・リアルの二俣公一さん。創業300年と城崎屈指の歴史を誇り、小説家 志賀直哉が「城の崎にて」を執筆した旅館である三木屋のリノベーションを手掛けました。プロジェクト開始から10年近くにわたり城崎に足を運ぶ二俣さんに改めてまちの魅力、若旦那とのこれまでのリノベーションの軌跡について詳しくお話を伺いました。
【目次】
_二俣さんが城崎温泉に携わるきっかけは何だったのですか?
二俣公一さん(以下F)_既に「三木屋」と仕事をしていた知人から繋いでいただき、旅館のお風呂の改修を相談されたことがはじまりでした。でも初めは内風呂1つと言われていたので、正直お風呂だけの設計とはどういうことなんだろうと。(笑) まずは城崎へ視察に行くことになったのですが、行った日はちょうど記録的な大雪の日でした。向かう途中、大阪で電車が止まってしまって。「三木屋」のご主人 片岡さんが片道3時間かけて大阪まで車で迎えに来てくれたんです。最初は少し不安があったものの、車中でお話を聞くうちに片岡さんのお人柄や熱意のある方ということがとても理解できました。
_「三木屋」を初めて訪れた時の印象はどのようなものでしたか?リノベーションの方向性はどうやって形作られていったのでしょうか。
F_「三木屋」が老舗の落ち着く旅館ということは明瞭でした。情緒ある実家に帰ってきたような感覚があるというか。その雰囲気を壊したくないと思ったんです。元々過去に皇族の方が宿泊されたり、志賀直哉ゆかりの旅館ということもありすごく現代的なデザインというより、もう少し時間を重ねた味わいのある宿の方がふさわしい。既存の建築物を活かしながら昇華し、この先も持続可能な形で更新していく作業をやっていこうと思いました。
_設計上で遺すべき部分、更新していく部分をどうやって決めていくのでしょうか?
F_この先何十年と使っていく空間なのでまずは耐久性です。耐久が見込める部分は残し、あとは現状から少しだけ前に進めることを意識しています。活かすものと新しいものを同居させる。僕たちはよく"溶かす"という表現を使いますが新たに取り入れる要素は馴染ませて溶かすことを視野に入れ、加減しながら素材や色彩のデザインを行っていきました。
_二俣さんは「つつじの湯」を皮切りにその後、お部屋や別のお風呂など10年近く「三木屋」さんに携わられていますね。これまで手がけられた中で二俣さんが特に印象深かった空間はありますか?
F_22号の特別室は、和室の延長線上にある洋室はどういうものかという解をうまく見出せたように感じています。旅館は和室を洋室に転換する需要が高まっていますが、急に洋室を作るとベッドに高さがあるので和室との関係性が不自然になる。洋室の床のレベルを一段下げることで和室に座っている人との目線が合うように作っています。
_洋室の天井に曲線がついていたり、欄間がガラスになっていたりとディティールの随所にさりげないこだわりが感じられます。
F_そうですね、和室は板貼りの天井で、洋室はアールを描く左官にしています。欄間は彫り物や格子が一般的ですが、天井のうつりかわりや部屋の連続性が欄間を通して視覚的に伝わった方が部屋の奥行きも生まれるんじゃないかと思いガラスにしました。どちらの部屋にいても奥行きが感じられる空間の繋がりを意識しています。和洋どちらかに傾倒したり、様式やセオリーがあった訳でもないですが、こういった小さな更新の積み重ねで空間を構成しています。
_二俣さんは城崎では「三木屋」の他にもまちにある寿司屋「をり鶴」や「玄武洞公園」など幅広く手がけられていますね。
F_よく建築家やデザイナーというイメージが先を行きますが、設計自体はすごく地味な裏方仕事だと思っています。細かい機能や材料の取り合い、コストなどあらゆる要素を集約しその中でベストを探していく。「三木屋」、「をり鶴」や「玄武洞公園」も向き合い方は基本的に同じです。既に存在する要素を活かし、あまり大きく変えずに、でも何か変わっているという更新です。
玄武洞も最小限で最大の効果を出すため、行ったのはベースラインを整える、不必要なものを整理するということに注力しました。
F_わかりやすいコンセプトをベースにものづくりを行い、迫力ある建築でどーんとわかりやすく外に表れるのも目的によっては面白いと思うけれど、三木屋のリノベーションの様に細かい部分を緻密に積み上げていくだけでも空間はちゃんと出来上がります。
特に住宅や宿は、日常の先にある贅沢さや落ち着きを感じられる空間の方が長い目で見たとき、本質的に大切にされる場所になっていくのではないかと思います。
_城崎にそれだけ長く関わられていると、他の旅館の方々とも交流する機会もあると思います。まちの皆さんとの会話の中から城崎に対しどの様なことを感じますか?
F_城崎で宿を経営する若旦那衆の皆さんは一代で築きあげてきたわけじゃないということをよく自覚した上で自発的に動かれている印象があります。先代たちが継いできたものを次に繋いでいく、彼らは自分達の代で終わりじゃなく引き継ぐことが当たり前と思っています。
だからどうやったらまちが良くなるかを真剣に考えているし、その姿勢に信頼が置けるので私たちも真摯に向き合えます。あと皆さん背伸びしすぎていないのがとても良い。決してどこかの真似をして〇〇みたいになりたいという様な議論にならない。
商売はもちろん大事だけど、あくまで自分たちがまちをどう発展させていきたいかを軸に取り組まれていることが関わる身としてとても心地良いです。
_城崎のまち全体がひとつの旅館、共存共栄という意識の本質ですね。
F_まちの駅が玄関で、道路が廊下、それぞれの宿に入ればお部屋、そして外湯の大浴場に入る。まち全体を温泉宿として捉える、先代から受け継がれてきたこの考えがとても良いですよね。
みんながまちを回遊するから小さなスナックや町中華、昔ながらの射的場などが今も残っていてむしろ皆んなで持続していこうという空気がある。まちの良い土台ができている様に感じます。
二俣 公一(ケース・リアル) 空間・プロダクトデザイナー。福岡と東京を拠点に空間設計を軸とする「ケース・ リアル」とプロダクトデザインに特化する「KOICHI FUTATSUMATA STUDIO」を主宰。国内外でインテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで多岐に渡るデザインを手がける。JCDアワード(現・日本空間デザイン賞)やFRAMEアワード、Design Anthologyアワードなど受賞歴多数。
http://www.casereal.com/ http://www.futatsumata.com/
建築施工写真:水崎浩志
参加のご応募について/下記リンクよりお申込み下さい。
受付を行ったあとは、今回のツアーのコンセプトや概要についてご説明を行います。その後、二俣さんが内装デザインを手がけた城崎のまちの寿司屋「をり鶴」のランチをいただきながら参加者同士、自己紹介を行います。
二俣さんご本人による解説のもと、高松宮殿下が宿泊された歴史を持つ特別室22号室をはじめ、リノベーションを手掛けたお部屋と内風呂を見学します。それぞれの空間の素材使いや色彩、ディティールにもぜひご注目を。
大谿川を挟み
北側/泉翆・錦水・つばき乃
南側/小林屋・三國屋・こぢんまり
城崎にある他の建築家 × 個性的な温泉宿のお部屋を歩いて巡りながらご案内します。建築家と旅館の個性あふれる空間を比較しながら楽しめる絶好の機会です。
*旅館の若旦那様による解説付きでのご案内となります。1日目と2日目それぞれ3軒ずつ(計6軒)の見学となります。
お宿のチェックインを済ませたらお部屋でゆっくりくつろいだり、まちへ出て外湯めぐりを楽しみましょう。
日本海の新鮮な魚介類や山の幸、但馬牛など豊かな城崎の食をご堪能ください。*お申し込み先の旅館によりプラン、お食事内容は異なります。
食事後、二俣さんを囲んで交流会を行います。建築やデザイン談義をじっくり楽しめるチャンス。こちらは自由参加ですがせっかくの機会なのでぜひ参加者同士の交流を深めましょう!
大谿川を挟み
北側/泉翆・錦水・つばき乃
南側/小林屋・三國屋・こぢんまり
1日目にまわった別のコースで各旅館を巡ります。
お疲れさまでした!ぜひ城崎のまちのそぞろ歩きや外湯めぐりをお時間許す限り堪能してくださいね。城崎文芸館や城崎アートセンターもおすすめですよ。